VIBRANCE

東京の副知事になってみたら


出版社: 小学館
著者: 猪瀬直樹

作家としても東京都副知事としても、その行動力、発信力で、国家の改革に取り組んでいる猪瀬さん。先日書評に書いた「突破する力」とは違った意味で「気づき」の多い一冊。

道路公団のときもそうでしたが、猪瀬さんはどこまでも民間の視点、消費者の視点で物事を捉えて行動をしている。
また、風評や先入観に惑わされることなく、客観的な視点で現状分析を入念に行い、各種の提案・提言をしてきた。
裏を返せば、役所自体が既成概念・固定観念に縛られ、希薄な民間感覚をベースに政(まつりごと)を行っているのだろうが、
この3年、東京行政でニュースになったこと、舞台裏を含め、事細かく書いてあり、「そういえば、そんなことあったなあ、そういう背景があったのか」と思う箇所がいくつもあった。

痛快なのは、参議院宿舎の新設にあたり、その中止をめぐって中央官僚と戦うところ。
中央官僚が地方公務員をついつい見下してしまう習性からでた不用意な発言を、鋭い視点で論破してしまう場面があるのだが、
実はその「議論」の前に相手の出方を予測して、入念な準備をしているところがすごいと思った。

また、「今後の東京」について、未来予測を踏まえた様々な政策提言(提言だけでなく実行に移していますが)も興味深いものだった。

ケア付き賃貸住宅、周産期医療の整備、限界集落の回避、地下鉄の一元化、太陽光発電・・・

いかに住みやすい街にするのか、そういう暮らしをつくっていくのかが、役所の責務だと思うのだが、その「住みやすい」という定義が変わってきているような気がする。
ここ10年は特に、景気も低迷し税収が少ない中で、高齢者は増加し福祉にお金がかかるようになっている。収入は減っているのに、支出が増えているわけだ。
借金を重ねるわけにもいかないので、バラマキ的なことはどんどんできなくなってきている。(国政などは逆行している感もあるが)今こそ、自治体と住民の向き合い方が変えなくてはいけない。
お互いが、自立性を保ちながら、自治体でなければできないこと、個人が応分に負担すべきことを峻別し、緊張感のある関係を保っていくことが大事であると感じた。

役所のような硬直化した組織、しかも東京都のような巨大な組織となると一筋縄ではいかないだろう。
そんな組織に風穴をあけていくというのは大変なことだ。
しかし、入念に現状分析をしていくことで、限りない可能性がみえてくることを、本書は再認識させてくれた。

本書の最後にあった「作家だからできること」の一節
「まず必要なのは歴史認識で、自分の位置を、この国の場所をつかむことである。そうすればなにを自分がしたらよいのか、わかる。
結局、みな政治家の悪口を言って溜飲をさげているのだ。あれがダメ、これがダメと。そうでないと僕は思う。
僕は作家として、作家だからできることを考えた。直感の力、記録し伝える力、という武器を駆使した。
ビジネスマンなら、エンジニアなら、公務員なら、中小企業の経営者なら、スポーツマンなら、男でなく女だから
それぞれができることを提案し、提案するだけでなく実行すればよい。意見を言うなら、言ったぶんをやってみよう。
事実にもとづいてやろう。形容詞で語ることは避けよう。(つづく)」

ビジネスマンの前に、一国民としてどう生きていくべきか、
能書き言う前に、できることは何かを考え、「実行」していきたいと思う。
 

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